2006年の年末に、温泉旅館の新しいカタチを予感させる施設が、本州の西の果て、山口県は長門湯本温泉に誕生した。
宿の周辺を流れる川の名前から、宿名を「別邸 音信(おとずれ)」とした。「音信」を「おとずれ」と呼ぶのは、最近よく見かける「あて字」による命名かと当初は勘違いしたが、実際、音信川(おとずれがわ)があると知り、なんとロマンティックなネーミングだなと改めて感心したものだ。
そんな宿名なのだが、中身はゴージャスそのもの。全18室の小さな宿ながら、フィットネスジム、エステサロン、バー、水盤のエントランス、茶室、岩盤浴、ビジネスセンター・・・など、豪華なパブリック施設が用意されている。食事は、なんと和食懐石、フレンチ、鉄板焼きの3種類から選べる。客室も、洗練されたデザインが施され、全室に露天風呂も備わる。しかも、そのお風呂は、源泉100%かけ流しときたから、文句のつけようが無い。
18室の宿に、投資額が25億円(!)というのも、業界では当時話題となった。一般的な常識からすれば、無謀に近いチャレンジだからだ。それを実行したのは、今や中国地方というよりも、全国随一の名宿の仲間入りを果たした「大谷山荘」の成功によるものだ。
大谷峰一社長(昭和25年生まれ)は、「大谷山荘」で、できなかった、もうひとつの理想の宿を「別邸 音信」に具現化したかったようだ。それは、「温泉旅館」の癒しと、「ホテル」の快適性の融合。最近流行の和モダンの見せかけだけのリニューアル旅館とは違い、スタイルやコンセプトまで、根っこの部分から日本旅館の未来形を作りたかったのだ。
客室タイプは和洋室、洋室の7タイプあるが、すべてにベッドが入っている。これからの高齢化社会には必要不可欠ということなのだろう。その他、この施設には、盛りだくさんのサプライズが、ゲストを待ち構えている。
つまり、ラグジュアリー路線の宿泊施設と見るだけでなく、「次世代の温泉旅館」と考えれば、この宿で過ごす時間は、よりいっそう魅力的になる。
プロ野球で言えば、スーパースター揃いの常勝球団みたいなもの。あまりにも強力すぎて、近隣の宿が、ちょっと可愛そうに思えるのは私だけであろうか・・・。不景気の世の中にも関わらず、リピーター客が増え続けている理由は、そんなところにもあるようだ。
■別邸 音信/山口・長門湯本温泉