伊香保温泉は、群馬県・榛名山の中腹に位置し、万葉の時代から続く歴史と伝統溢れる関東屈指の温泉地。お湯の発見は1900年前とも1300年前とも言われている。
創業500年を超える「千明仁泉亭」は、その伊香保温泉屈指の老舗旅館。
その伊香保のシンボル的存在となっているのが、360段に及ぶ石段街。その石段街そばに佇む「千明仁泉亭」は、明治・大正時代に活躍した文豪・徳冨蘆花(1868~1927年)ゆかりの宿でもある。
蘆花は、伊香保、特にこの「千明仁泉亭」をいたく気に入り、常宿とし、さらにはここで亡くなった。代表作「不如帰」は、この宿が舞台となっている。
さらに、歌人・与謝野晶子、文豪・谷崎潤一郎らも訪れているという。また、現在では、皇室御用達の宿としても知られている。
その歴史と伝統を感じさせる宿でありながら、リーズナブルな料金で宿泊できる部屋から、人気の露天風呂付き客室まで用意され、幅広い客層に支持されている。
そして、なんといってもこの宿の素晴らしいところは、伊香保の源泉でもある「黄金(こがね)の湯」が、100%かけ流しで体感できる点だ。
この宿は「小間口権利者組合」に入っている。
「小間口権利者」(源泉所有者)とは、源泉が通る本管から分湯される湯口を意味する「小間口」を所有し、各々定められた量の源泉を使用する権利を持つ者の事を言い、現在、旅館では9軒の所有者が、何百年もの歴史を刻む茶褐色の「黄金の湯」を守るべく、厳しい適正使用を定め、組合を形成しているのだ。
その9軒の旅館の中でも、宿泊客一人当たりの源泉量が一番多いと言われているのが、ここ「千明仁泉亭」なのである。
しかし、現在、伊香保温泉には50軒前後の温泉旅館があるが、「黄金の湯」を使用しているのは、そのうち約半分と言われている。9軒の権利者(大家)の中から、分湯しているのだろう。
ちなみに、「千明仁泉亭」は、どこの旅館にも分湯はしていない。だからここの温泉は、どこよりも“濃い”と、常連客は語ってくれた。
■千明仁泉亭/群馬・伊香保温泉