2011年3月11日14:46、宮城県沖を震源とする、マグニチュード9.0という、世界でも最大級の規模の大地震が発生した。
その後、大津波が、岩手県から茨城県沿岸に襲い、死亡・行方不明者合わせて2万人を超える、未曾有の大天災が東日本に起こってしまった。
さらに、東京電力の管理する福島第一原子力発電所(福島県双葉郡)に、放射能漏れの、これまた国内最悪の事故が発生し、その後、決死の原子炉の冷却などを行っているが、残念ながら、このブログを書いている段階では、収束の糸口も見つかっていない。
周辺に放射性物質が飛散する、なんとも残念な結果が現実に起こり、連日テレビでは放射能濃度による人体の影響などが放送されている。
これにより、首都圏の電力不足が発生し、計画停電も実施され、日本のGDPの40%を支える首都圏の経済活動に大きな影響を及ぼすことになった。
さらには、原発事故における2次被害とも言える事件が発生。
福島県、茨城県などから出荷されたホウレンソウや牛乳などが、検査により、放射性物質の残留濃度が基準値を超え、政府により出荷停止が言い渡された。
風評被害も生まれ、首都圏の流通では、基準値を下回る野菜でも、福島産というだけで取り扱わない、店頭に並ばないという、現象まで起きた。
以上が、ここ20日間に日本に実際に起きた主な出来事である。
世界中から支援の輪が広がり、被災者も悲しい現実に向き合いながら、頑張っている。
いつの間にか、この大地震は、マスコミにより表現は違うが「東日本大震災」と呼ばれるようになった。
そして、阪神淡路大震災の時に、未経験のボランティアが被災者・被災地に逆に迷惑をかけた事が一部起こった事により、自ら食糧、寝る所を確保した、自立型のボランティアが求められるようになった。
被災地の自治体も、大地震発生してからしばらく経って、そのボランティアの受け入れを始めた。
そのボランティアに参加できない人たちは、義援金などによって、少しでも被災者の負担を和らげようとしている。
しかし、twitterなど新しいコミュニケーションツールにより、他に何かできないかと、毎日のように情報が飛び交っている。
私は、全国の温泉宿を取材し、情報を皆さんに提供している身。
その立場からも、放射能に汚染されようが、「引っ越しができない」温泉宿を見捨てないで…という、私のtwitterに多くの方々が共鳴してくれた。
しかしながら、地震による建物の倒壊は免れた宿でも、連日予約キャンセルが宿の電話を鳴らした。
実際、震災後しばらくして福島県のある温泉宿が任意整理するとのニュースも流れた。
そんな中、私のtwitterに、多くのフォロワーが、私に意見を求めてきた。
「どうすれば、温泉宿を助けられるか」
被災地でも、宮城県の鳴子温泉郷、福島県の土湯温泉、東山温泉などでも、自治体や国の補助金により、被災者の受け入れを開始し、旅館の機能を果たしているところもある。
それは、ある程度の数の宿が所属している温泉組合が窓口になっている。
しかし、一軒宿や、小規模の温泉地の宿は、被災者受け入れもできず、そして震災により首都圏からのお客も途切れ、まさに命綱の売上げ、現金収入を絶たれ、絶望の淵にいる温泉宿が多数ある事を、知らない方が多いのに驚いた。
twitterで、旅行ツウ、温泉宿ツウを名乗っている人たちでも、今、被災地の温泉宿に行くのは、ほとんどの宿が、被災者が利用しているから迷惑じゃないかとの情報しか持っていないし、または、こんな時期に旅行なんて、不謹慎じゃないか・・・といった心理も生まれ、一層、被災地、もしくは被災者周辺の宿にお客が行かなくなった。
震災後、私の増えた仕事のひとつが、被災地・被災地周辺の宿の経営者との電話である。
それは同じ経営者同士、悩みも聞き、考えられるアドバイスもしていった。
涙声の経営者もいた。
マスコミは、当たり前だが、震災による死亡者、被災者の住民の事を取り上げる。
しかし、大地に埋まっている温泉と一心同体の温泉宿は、避難もできず、そこにとどまり、環境を整え、お客を迎えられる体制を整えなければならない。
しかし、客は来ない・・・。もう廃業するしかないのか・・・。
そして私はtwitterで「4月になったら被災地の温泉宿に行こう」と呼びかけた。
東北自動車道も復旧し、ガソリンスタンドも、いつでも給油できるようになった。
多くのフォロワーから賛同を得た。
しかし、「こんな時に行きたくない。旅館というのは寛ぐために行くもの。」という意見ももらった。
それも分かる。お金を使って旅行に行くということは、そういう事かもしれないから。
しかし、2,3日前に、ある旅行好きの老夫婦から連絡をもらった。
「これから高速道路もつながったし、東北の温泉宿を何軒か行く。こんな時だから、私らだけでも今までお世話になった宿の人たちを応援しないとね。」
彼らは阪神大震災の時に、お店を潰され、その時ボランティアで駆けつけてくれた温泉宿の関係者にどれだけ助けられたか、胸に刻んでいたのだ。
そこで私は「旅行ボランティア」という言葉が浮かんだ。
通常、震災で働くボランティアの方たちは、ひたすら被災者のために働く。
頭が下がる。
でも、そんな体力も時間のない人は、別な形のボランティアができるのではないか。
それは、体力の代わりにお金を使う事。
例えば、被災地近くの営業している温泉宿(被災者の受け入れしていない宿)に、単に泊まりに行くという、ちょっと変わったボランティアなのだ。
さらに、経済復興に寄与し、そして温泉宿を勇気づけする事ができる。
対象エリアとすれば、東北6県と茨城県、そして隣接する新潟県、群馬県、栃木県あたり。
ゴロ合わせで言えば「温泉宿応援し隊」か。
私の大好きな龍馬さんの「海援隊」にちなんで、「宿援隊(しゅくえんたい)」でもいい。
ただ、閑古鳥の鳴く温泉宿に、お客様として宿泊すればいいだけの話。
これが厳密にはボランティアとは言えないかもしれないが、確実に温泉宿を励ますことができる点を考えると、立派に「温泉旅館を支える」ボランティアと言えるような気がする。
方法としては、必ず一般客が利用して構わないか電話で確認する。
そして予約は必ず電話で、「温泉宿を応援してます!」と一言あると、宿側は感激してくれるはず。
私は、最近「3年B組金八先生」のファイナルが放送される番宣の中で、金八先生(武田鉄矢)はこう言ったのをたまたま見ていた。
得意の漢字の由来の話からである。
・・・「友」という字は、よく見ると「人が支えている」という風に見えませんか。
人は調子のいい時と、悪い時があります。
人はできるだけ、調子のいい時に人に会いたいと思います。
ですが、その時できた友人と、調子の悪い時に支えてくれた友人と比べてみてください。
調子の悪い時に出会った友人は、一生の友になる場合が多いのです。
・・・と、ちょっとニュアンスは違うかもしれないが、ご容赦願いたい。
これは、お客と宿との間にも、言えることだと思う。
この四面楚歌の時期に、あえて来てくれたという客の気持ちは、宿の人たちは、例えようのない感謝の気持ちでいっぱいになるはずだ。
その宿が初めての客でも、宿側にすれば、一瞬のうちに、長年お付き合いしている客と同じように見えるのかもしれない。
福島県・須賀川市にある「おとぎの宿 米屋(よねや)」の女将・有馬みゆきさんは震災後、毎日のように鳴り響く予約キャンセルの電話に悩まされていた。
従業員もこのまま雇用維持する事も難しくなってきた。
当たり前だ。売上げがゼロなのだから。
今年1月に、新たに借金をし、大浴場や、離れの客室の大改装中の折りに、この大震災だったから、いっそう追い打ちをかけられた感じだ。
そんな中、HPに「4月1日から営業開始します」との告知をする。
すると、数日後、一本の電話が鳴った。
それは聞きなれた常連客の声だった。
「どう?大丈夫だった~?4月○日に行くからね~。元気出してね~。」
女将さんは電話口で、思わず泣き崩れたという。
同じく福島県・会津磐梯山のふもと、猪苗代湖近くで、バリアフリーの離れの温泉宿「静楓亭(せいふうてい)」も同じ悩みを抱えていた。
各部屋には男女別大浴場並みの大きな露天風呂が付いている人気の宿だったが、震災後、首都圏からのお客の予約キャンセルが相次いだ。
売上げゼロの日が続いた。
普通なら、ここで終わってしまうところ、御年80歳を超える荒井社長は、元気にこう話してくれた。
「地元の常連のお客さんが来てくれて何とかやっているよ。」
つまり、温泉宿にとって、義援金をもらうよりも、お客さんが来てくれるほうが、何倍も嬉しいのだ。
義援金は一時なもの。金融機関側から見ても、こんな時にでもお客が来るという事は評価にもつながる。それによって追加融資も受けられるかもしれない。
そんな事よりも、宿側にとっては、この状況の中で、遠いところまで泊まりに来てくれたという「気持ち」が何よりも嬉しいはず。
いま、東日本だけでなく、日本国中が自粛ムードに包まれている。
でも、自粛ばっかりでは、前に進めないこともご理解いただきたい。
不謹慎という言葉も、最近よく耳にする。
これも贅沢を慎めとのメッセージなのだろうが、謹んでばかりいては、経済も復興しない。
今回の震災によって、直接的な損害(建物の破損)がなくても、相次ぐ予約キャンセルによって、お客が激減している宿は、青森県や秋田県、山形県などの日本海側の東北地方だけでなく、東北地方に隣接している新潟県、群馬県、栃木県など広範囲になっているから深刻だ。
しかし、私たち日本人は、この史上最悪の大震災を克服しなければならない。
私は温泉宿に関わる身ということで、このブログでその一端をご紹介したが、旅館に限らず、店舗も会社も同じような事が言えるはず。
被災者の方もTVのインタビューで気丈に答えていた。
「私一人だとどうにかなりそうだけど、周りにいる人たちのおかげで、何とか生きている。感謝しています。」
胸が締め付けられる。
私は常々、日本文化の誇れるものとして「旅館のおもてなし」をあげている。
人の心を尊重し、相手が気持ちよく過ごしていただけるように考え、結果、居心地のいい時間を提供してくれる、日本独自のおもてなし。
基本は一泊二食でお客を迎え入れるスタイルは、お客にとって、細かい心配りを感じさせ、感動も呼び起こす。
日本人の宇宙飛行士が、宇宙から帰ってきた時のインタビュー、海外で活躍するスポーツ選手のインタビュー・・・「日本に帰ったら、何がしたいですか?」の質問に一番多いだろう答えは、「温泉(宿)に行きたいですね~。」
私はそんな温泉宿を守りたい。
「旅行ボランティア」・・・「温泉宿応援し隊」・・・「宿援隊」・・・少しでも考えてくれたら嬉しい。
■今回の東日本大震災でお亡くなりになられた方々に、哀悼の意を表します。そして被災された方々、ご家族を亡くされた方々のお見舞いを申し上げます。被災地が少しでも早く復興する事をお祈り申し上げます。