海辺の料理自慢の宿に泊まった。
海の幸満載の献立は、見た目にも豪華で、しかも新鮮だから間違いなく美味しい。
それを見た時、私は、ふと同じ価格帯の同温泉地の別の旅館の料理だったら、どうだろうと考えてみた。
私のような仕事をしていると、作業効率を上げるためだけではないが、できるだけ同じエリアに行ったら、複数の宿を取材することになる。
西日本の有名な海辺の温泉地の宿を、2軒まわった時の話だ。
2日目の宿は、前泊した宿とお造りの魚の種類も同じで、その他の地元の料理とされる献立も、ほとんどが似たようなものだった。
夕食の撮影が終わった後、食事の時間となったが、私は箸が進まなかった。
理由は、上記の通りで、いくら美味しいものでも、2日連続はきつい。
それを見ていた宿の女将さんは心配して、私に「お口に合いませんか?」と聞いてきたが、もちろんそんなことはない。
単に「飽きていた」だけだった。
この海辺の宿に限らず、地元に根を生やす温泉旅館には、定番とされる献立が存在する。
大部分のお客もそれを食しにやってくる。
しかし、そこの温泉地に行きたいけど、料理が自分に合わない・・・という人もいるのは確かなのだ。
旅館の料理は、いわゆるコース料理みたいなもの。
それも、月ごとに、あらかじめ決められた料理を出すのが通例となっている。
だから、旅行中に同じ温泉地で宿を変えるのは、私はお勧めしていない。
同じ料理が出る確率が高いからだ。
連泊の方には、飽きないように献立を工夫して、苦労しているのが料理長。
そして、予約の際に、あらかじめ苦手な食材を聞く宿も増えてきた。
しかし、あれもこれもダメと、ちゃんと食材を言える人がどれだけいるだろうか?
ここも難しい問題である。
嫌いではないが、好きでもない。どちらかといえばあまり食べない。
そんな料理が出てきたら、どうなるだろう。
高級なフレンチレストランなら、コースも選べ、さらにメインディッシュも選べる。
最近では、ランチタイムのイタリアンレストランでも、2000円台で、パスタの種類と、魚か肉の料理を選択できる。
パートナーや友人と行くなら、シェアしながら食べる楽しみも出てくる。
今や、日本人の「お・も・て・な・し」は、世界に称賛される文化に認識されつつある。
これからの温泉旅館の「おもてなし」は、もう少し「食」にスポットを当てるべき時代がきたように思える。
ボリュームたっぷりの料理や、地元食材満載の料理もいいが、その先のサービスである。
せめて、メインの料理をチョイスできるようになったら、格段にその宿のステータスは上がるだろう。
それには、マンパワーの問題やコストの問題も解決しなければならない。
でも、銀行に借金して、豪華な改装を施すよりも、お安い投資とも考えることができないだろうか?
今、コンビニは、美味しい弁当を開発して、弁当専門店から顧客を奪い、種類豊富なスイーツや、香り豊かなコーヒーを提供して、ケーキ専門店やカフェから客を呼び寄せている。
数年前、供給過剰と言われてきたコンビニが、最近調子がいい。
コンビニで扱う「商品力」を強くして、新たに攻勢を仕掛けているからだ。
同じように、温泉旅館も、「料理」という「商品力」を強くしていくことは、未来の確実な投資であることは間違いないはずだ。