最近、撮影で訪れた、とある関西の温泉地。
古くから名湯で知られるこの地域では、ここ数年、外国人客が驚くべきスピードで増えているという。
実際、私が滞在した某宿では、2泊3日の日程の中で、ほぼ半分以上の客は日本人ではなかった。
さらに、宿を出て、温泉街の中心を歩いてみても、日本人はほとんど目立たなかった。
そんな夜。
いつものように、一日の仕事を終え、夜11時過ぎに大浴場に向かった。
すると、先客がいたようで、入り口にスリッパが一人分脱ぎ捨てられていた。
私は脱衣所に歩を進めると、併設のトイレの扉が開いている事に気づく。
中には人がいるようだ。
そう思った瞬間、トイレで用を足していた男性は、私の存在に気づき、慌ててトイレのドアを閉めた。
後で分かったが、彼は中国からのお客さんで、さすが噂には聞いていたが(仕切りのない公衆トイレのこと)、やはりトイレには開放的なんだな・・・と、思わず納得してしまった。
あとで、彼は、私がカラダを洗っている近くに、椅子をとって、シャワーを浴び始めた。
私は、温泉であろうと、銭湯であろうと、パブリックのお風呂の場合は、石鹸を使ってきれいに洗い流して、頭も洗って、湯舟に浸かろうと決めている。
その中国の彼は、私と同様、丁寧にカラダを洗っていた。
彼は、トイレはともかく、お風呂に関しては、マナーを知っている客なんだなと嬉しくも思った。
それから数分後、新たな客が、大浴場に入ってきた。
彼は、洗い場には行かず、なんと、かけ湯もせずに、すぐに湯舟のふちに腰を下ろした。
見た目、まだ20代の若者だった。
私は、頭を洗いながら、彼をチラチラ見ていたが、すると、ゆっくりと腰を湯舟に入れようとしていた。
私は、思わず「ちょっと待って!カラダを洗った?」と叫んだ。
すると、彼は言葉の意味が分からないのか、キョトンとしていた。
その後、さらに湯に下半身を入れようとしたので、私は外国人客と判断し、カタコトの英語で「Wash!Wash your body!」と2度目の忠告。
すると、やっと意味が通じたらしく、首をかしげながら、彼は洗い場に向かった。
それから数分後、私は待望の湯舟に浸かり、ゆったりとしていると、さっきの彼が友人らしき人と談笑しながら同じお風呂に入っていた。
その彼らの会話を聞いてみると、なんと日本語。
彼は日本人だったのだ!
今や、入浴マナーは、日本人より、外国人のほうが知っているという事実を目の当たりにした瞬間だった。
日本人は、日本独自の温泉文化を守るためにも、せめて掛け湯をしてからの入浴を実践してほしい。
日本国内においては、外国人客は、日本人客の動向を参考にしながら、文化に溶け込もうとしているのだから。