私が全国を周っていると、宿の経営者から必ずと言っていいほど聞くのは、旅館スタッフが不足しているという悩み。
そして、その現象は、ここ最近さらに顕著になっている。
インバウンドが増え、観光業界は追い風になっているはずなのに・・・。
お客が来ないという悩みよりも、スタッフが不足しているという問題が増えているという事なのだ。
報道でもよく取り上げられている事だが、日本国内の、いわゆる少子高齢化が起因しているのは間違いない。
一部の業界を除いて、若い労働力が、必要な数だけ集まらないのだ。
ただでさえ、東京など大都市圏に人口が集中する中、温泉旅館がある地方には慢性的に労働力が不足していた。
日本文化の象徴と言われる旅館は、「おもてなし」を体験できる場所。
その「おもてなし」を求めに、国内だけでなく、世界中から人々が日本に訪れてきている。
ところが、当たり前だが「おもてなし」には、マンパワーが要る。
「人」がいてこその、サービス業だから、当たり前である。
人を集める手段として、給料を上げる手もあるが、それも限界にきている。
ある旅館では、客室数が25あるところ、人手不足のため、最大稼働客室数を約半分の13室にしているという。
予約が来ないわけではない。
受け入れるスタッフが足りないからだ。
最近、日曜日の夜、都内のあるファミレスに立ち寄った。
そこの従業員を見て、少し驚いた記憶がある。
大学生ぐらいの若いスタッフは見つからず、どうみても、70歳前後の男性従業員ばかりだった。
10年前には、見られなかった光景だ。
東京でもこうなのである。
あと10年経ったら、お店などのサービス業は、年配の従業員だらけになるのかもしれない。
昔ながらのサービスを提供する温泉旅館は、まさに岐路に立っている。
人材を集めるにはコストがかかる分、宿泊料金を上げざるを得ない。
逆に、ふとん敷きなど、お客様に自身でやってもらう代わりに、宿泊料金を安くするなどの割引プランも今後増えていく可能性は高い。
以前より、年配の女性の仲居さんが、地方の温泉旅館の代名詞だった。
これからは、いったんリタイアした中高年の男性を、無理のない勤務シフトで働いてもらうシステムも考えるべきだ。
例えば、介護が必要な高齢な親を持つ方であれば、いっしょに住み込みで働ける環境を提供する。
働く場所と、介護する場所が隣接していれば、安心なはずだ。
同じ悩みを持っている中高年同士のコミュニケーションも取れるし、ストレスも軽減される。
中高年スタッフは、給料よりも、働く環境を重要視すると聞いた事もある。
新たに働き手を集めるひとつの手段にもなるだろう。
同時に、ITをフル活用して、時間がかかる事務的な作業を極力減らすことも不可欠だ。
ネット予約が入った時点で、請求書領収書はもちろん、お客の好みがデータベース上で閲覧できて、下足箱に入れる靴の名札まで印刷できるシステムが必要だ。
日々進化するネット関連業務は、できるだけアウトソーシングすることも大事だろう。
貴重なマンパワーは、できるだけ「おもてなし」に費やすことが、これからの旅館経営には絶対に必要な気がする。