もう今年も6月。人によっては憂鬱な梅雨シーズンに入る。
今から20年以上も前。全国の温泉宿は、梅雨時の集客に頭を悩ませていた。
当たり前だが、一般的に人は外に出たくなくなる。
足元がぬかるみ、衣服は濡れるし、女性なら髪も乱れるし、おしゃれもできない。
そこで、ある温泉地では、今では当たり前となったこの時期の風物詩、ホタルに目をつけた。
元々、山あいで、川の近くの温泉地にはホタルをよく見かけた。
田舎であればあるほど、街灯などの照明も少なく、ホタルの乱舞にはこのうえない環境なのだ。
一部集客の成功を見た他の温泉地も、近くにホタル群生地になければ、無理やりホタルを外から連れてきて、川近くに放すといったところもあった。
すぐに何処かに逃げてしまったという話も良く聞いたが・・・。
とにかく、その頃は現在のようにインバウンドもないし、日本人の集客に頼るしかなかった時代だったのだ。
でも、私はこの時期の旅は好きだった。
もちろん、雨の中を外に歩き回る旅ではなく、じっくり好きな宿で過ごすといった時間の使い方だ。
客室で寝ころびながら好きな本を読み、好きな時間に屋根付きの露天風呂に入り、好きな時間にコーヒーやお酒をいただく。
こんな温泉宿の過ごし方は、逆に晴れていれば、せっかく旅に出たのだから周辺の景勝地に足を延ばそうかと心が動かされるが、雨が降っていれば、なぜか中に居たくなる。
なぜか、時間もゆったりと流れているような気もする。
精神的に落ち着くのだ。
ゲリラ豪雨は論外だが、シトシト降る雨は、抒情的だし、ロマンチックにも感じる。
客室は、できるだけ大きな窓がある部屋を選んだ。
夏に向かって周辺の木々の葉も、雨のおかげでなお一層鮮やかに映える。
就寝時の雨音も、子守唄のように聞こえる。
そういえば、昔から「雨」をモチーフにした歌は多いなあ。
クリエイティブな発想も、この時期の雨は誘ってくれるかもしれない。